【楽譜】花橘の香
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花橘の香 和歌の印象による幻想
When I breathe the fragrance of the mandarin orange blossoms
作曲:石原勇太郎
編成:小編成
グレード:3.5
五月待つ 花橘の香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする ― よみ人知らず
古今和歌集第三巻に、このような和歌が収録されています。「5月に花を咲かせる橘の香りが、今は別れてしまった恋人を想い起させる」というような意味です。橘の花というのは、実は古今和歌集の時代よりも昔、万葉集の時代にも、すでに和歌に取り上げられているほど人気のある花です。当時の人々は、橘の花と葉、そして実の美しさが時を超える存在であると信じていました。そんな当時の人々の普遍的な想いと、恋人の懐かしさという個人的な想いが融合し、独特の風情を醸し出している和歌です。
この和歌から感じる印象―つまり、言葉自体の響きであったり、よみ人の想いであったり、歌が思い起こさせる当時の人々の生活などの、この和歌が放つ雰囲気から「花橘の香」を作曲しました。全体は大きく5つの部分に分けることが出来ます。各部分の解説を簡単にしておきます。
冒頭~作品の最も重要な部分です。ヴィブラフォンと木管楽器によって奏される和音が作品全体の響きを支配しています。その響きの中でトランペットによって、作品の重要な動機が提示されます。この動機が、作品のあちこちに登場します。
B~8/6拍子になるこの部分は、「想い出」の部分、とでも言えるかもしれません。橘の花の香り(冒頭の響き)が、昔の恋人と共に過ごした時間を想い起こさせます。特にこの部分は、流れるような動きが大切になりますが、ところどころ現れる休符も大事にしてください。
F~ここは中間部にあたりますが、フルートのソロが中心になっています。フルートの澄んだ音色よりも、竜笛や尺八などのような日本の笛の音色に近づけてみてください。日常的ではない時間感覚をよく味わってもらえればと思います。ここでのクラベス(拍子木)も、世界を作る重要な要素であることも忘れないでください。
H~ここからは、土俗的な踊りのような場面です。低音のオスティナートの上で力強い音楽が奏でられます。しかし、ふっとB以降に現れた楽節が顔を現します。「想い出」は再び燃え上がりかけますが、それも踊りの狂乱の中に沈んでいってしまいます。
L~クライマックスとなる部分です。冒頭の響きが明確に再現され、重要な動機から生まれたアルト・サックスのソロが、動機の最終的な形であるAffettuosoの楽節~クライマックスとなる部分です。冒頭の響きが明確に再現され、重要な動機から生まれたアルト・サックスのソロが、動機の最終的な形であるAffettuosoの楽節を導き出します。またもB部分の「想い出」のカケラが顔を覗かせ、曲は幕を閉じます。を導き出します。またもB部分の「想い出」のカケラが顔を覗かせ、曲は幕を閉じます。
日本の音楽は、西洋の音楽とは異なり「間」を重視します。拍節通りに進む西洋の伝統的な音楽に対して、日本の音楽はひとつの音との対話と、非日常的な時間感覚の中での演奏が伝統的に行われてきました。そのことを少し意識して、この解説冒頭に載せた和歌を何度も読み、その意味を自分なりによく考えて作品と向き合ってみてください。
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